文=江原規由
先月(5月)、日本でG7伊勢志摩サミットが開催されました。世界が直面する主要課題への対応で、7先進國の足並みが揃うのかが注目されました。その成果はともあれ、リーダーたちが世界の課題に真摯に向き合い、顔を合わせて話し合う機會が設定されていることは、大きな意義が認められるでしょう。
9月には、中國で主要20か國?地域(G20)杭州サミットが開催されます。中國で、杭州といえば、“上有天堂、下有蘇杭”(天に楽園、地に蘇州と杭州あり)といわれ、13世紀、イタリアの商人であり大旅行家であったマルコポールは、自ら著した「東方見聞録」の中で、“世界で最も美しく、華やかな都市”と稱しています。そんな杭州で開催されるG20サミットのテーマは、「創新、活力、連動、包容」の世界経済の構築です。
G20杭州サミットのテーマは創新、活力、連動、包容
G20サミットのテーマ設定は、ホスト國の意向が反映されます。とはいうものの、テーマ設定までには、関係各國?機関との調整が行われるのが常です。G20杭州サミットのテーマは、“グローバル経済が低迷から脫卻するためには新たな成長の原動力が必要であり、G20はその指導的役割を発揮し、グローバル経済に新たな方向性とエネルギーを注入しなければならない”との認識に基づいて設定されたといわれます。
このうち、イノベーション駐1を意味する「創新」は、中國の5大発展理論(創新、協調、緑色〈環境〉、開放、共享〈共有〉)の中心的概念でもあります。中國は、G20のホスト國として、「中國の経験」と「中國の知恵」で世界経済の発展に貢獻するとしています。同テーマは、そのための「中國プラン」といえるでしょう。G20杭州サミットのテーマと5大発展理論は連動しているということです。
因みに、昨年11月、韓國?ソウルで、3年半ぶりに第6回日中韓サミットが開催されましたが、その折、発表された「経済?貿易に関する共同聲明」でも、イノベーションを利活した3國間経済交流の拡大に向けた協力強化が謳われています。
日中韓三國を問わず、イノベーション経済注2は、今や、世界経済の行方に大きく影響しつつあるといってもよいでしょう。
G20杭州サミットが中國で開催される意義
先進國中心のG7と異なり、G20には発展途上國(新興國)も含まれます。數が多ければよいというわけではありませんが、グローバル経済に新たな方向性とエネルギーを注入するとなると、“少より多を好む”のも一理あるでしょう。2016年のIMF予測では、G7が世界全體のGDP(名目)に占める比率は、46.4%と半分にも満たない狀況です。因みに、上位3傑は、米國(24.5%)、中國(16.1%)、日本(5.5%)となっています。世界最大の発展途上國を自認する中國のGDP比率は、米國と日本の2國を除くG5の比率(16.4%)にほぼ匹敵しています。G20杭州サミットにおける「中國プラン」にはそれ相応の説得力があるわけです。何より、G20杭州サミットが、「一帯一路」構想やAIIBの設立などを通じて世界経済に新たな発展の機會を創出し、グローバル経済ガバナンスの強化を図ろうとしている中國で開催される意義は、大きいといえるでしょう。
包容で“みんなの世界を構築”
さて、昨年11月には、トルコでG20サミット、フィリピンでAPEC首脳會議が開催されました。そのテーマは、それぞれ、“共同行動以實現包容和穩健增長(包括的で安定した健全な成長を共同して実現する)” と “打造包容性經濟,建設更美好世界(包括的な経済の構築、より良い世界を構築する)”でした。そのいずれにも、G20杭州サミットのテーマである「包容」の二字があります。「包容」とは、英語ではinclusive(包括的な、非排他的な)が訳語として當てられています。この「包容」を別の中國語に置き換えるとすると、“我們”(私たち〈の〉)がよいのではと考えられます。経済発展の恩恵(例えば、経済のグローバル化、地域経済の一體化などがもたらす利益やメリット)が先進國、発展途上國、後発開発途上國にもこれまで以上に波及するグローバルガバナンスや新たな経済発展モデルの構築が求められている今日、杭州G20サミットで、“みんなの世界”を創造するためのコンセンサスが形成されることが期待できるでしょう。