池澤夏樹という作家は、世界的な知名度は村上春樹には及ばないものの、日本では非常に高い地位を誇っている。2007年には、傑出した蕓術家に日本政府が與える紫綬褒章を受章している。毎日新聞の書評員を長期にわたって務めるほか、朝日新聞の時評コラムも評判が高い。今年69歳の池澤夏樹は政治的には、日本の知識人の「王道」である中道左派とみなされている。(文:新井一二三?日本明治大學教授)
日本の文壇における中道左派の知識人の代表としてはノーベル賞作家の大江健三郎がいる。大江は一貫して、反戦?反核?反改憲を主張してきた。日本が戦後の1947年に施行した憲法は第9條で交戦権の放棄を宣言している。右派であるタカ派の政治家は改憲によって交戦権を取り戻そうとしている。平和主義のハト派はこれに対し、「護憲派」と言われる立場を取っている。池澤夏樹は過去には「護憲派」だったが、朝日新聞に最近、「主権回復のために 左折の改憲、考える時」と題したコラムを発表し、読者を驚かせた。
2011年に大地震と津波を経験した日本人のほとんどは、國家ができるだけ早く原子力発電所の放棄を決定することを求めていた。だが日本では、當時の民主黨にせよその後の自民黨にせよ、原子力発電の放棄の期日を無期限に遅らせてきた。彼らはいったい誰に譲っているのだろうか。池澤はこのコラムで、『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』という本を読んで原因が米國にあることを悟ったとしている。
1951年に締結された舊日米安保條約は、米軍が半永久的に日本に駐留することを許している。1960年に締結された新日米安保條約は日米軍事同盟を確立すると同時に、これに基づいて在日米軍の取り扱いを決める日米地位協定も締結された。米軍の兵士には、中國の以前の租界のように治外法権が與えられた。崇高な理念をうたう憲法と屈辱的な條約との矛盾を覆い隠すため、日本の最高裁は「統治行為論」を編み出し、國家の存立にかかわる高度に政治的な問題は裁判所の審査の範疇にないとの立場を取った。つまり日米安保條約は事実上、日本國憲法の上に立っているのである。原子力は交戦権にもかかわり、國家の存立にかかわる高度に政治的な問題なので、日本人はどうもできないということになる。