日中経済協會
調査部長 高見澤學
ボアオ?アジアフォーラム2017年年次総會が、3月23-26日に中國の海南省博鰲市で開かれる。テーマは「グローバル化と自由貿易の未來に向かって」。今年1月17日にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総會(ダボス會議)で、中國の習近平國家主席がグローバル化や自由貿易の重要性を強調し、保護貿易主義に反対する旨の演説を行ったことは記憶に新しい。米國トランプ大統領の対外経済政策に関する発言やブレグジットなど歐州諸國の動きをみれば、世界的に保護貿易主義の傾向が強まっていることは間違いない。
こうした情勢の中で、中國が強い信念をもってグローバル化を進めようとしている一つの大きな手段が「一帯一路」構想であり、この構想が最近中國各地に設置されている自由貿易試験區(FTZ:Pilot Free Trade Zone)にチャンスをもたらしている。2013年9月に上海市にこの自由貿易試験區が設置されて以來、2015年4月に天津市、広東省、福建省の3カ所に拡大、そして昨年(2016年)10月に、新たに遼寧省、浙江省、河南省、湖北省、重慶市、四川省、陝西省の7カ所が追加された。昨年9月、湖北省を訪れた際に、襄陽市に建設中の自由貿易試験區を視察したが、現地関係者の自由貿易試験區に対する意気込みは強く、期待の高さがうかがわれた。今後、これら自由貿易試験區の実績次第では、更に地域が拡大される可能性は高い。
今年の全國人民代表大會(全人代)が開催された3月5日、習主席は全人代上海代表の會議に參加した。會議の席上、習主席は自由貿易試験區の建設は「新たな情勢下において改革を全面的に深化させ、対外開放を拡大する戦略的措置である」と述べ、上海自由貿易試験區が「開放とイノベーションが一體的に融合した総合改革試験區、國が進める一帯一路建設へのサービス、市場主體の海外進出推進のための橋頭堡となるよう努力しなければならない」と強調している。ここでもまた、開放とイノベーションの「融合」がキーワードとして使われており、自由貿易試験區では投資規制の緩和、貿易手続きの簡素化、金融サービスの開放など中國にとって新たな制度の運用が試みられている。
新たな制度の導入に際し、従來の中國の手法をみれば、とにかく先ずは「実行してみる」ということだ。「実行」こそが最も重要だとの考えなのだろう。たとえ一つのアイデアが不完全でも試験的に実施し、その結果が良ければ拡大?普及させ、改善の余地があれば改善を重ねて普及に努め、まったくダメならきっぱりと止める。非常に明確で、合理的かつ効率的なやり方だ。世界的にも歴史的な転換期を迎えている中で、今後の経済政策は前例となるモデルが極めて少ないだけに、試行錯誤を重ねながら手探りでオリジナルを創り上げていかなければならない。この場合に、最初に想像力によって理想的な姿を描き、それを実現するための方策を練るといういわゆる「演繹法」による方法が効果的だろう。そして問題があれば修正を加え、少しずつ実現に近づけていけばよい。これに対し今の日本では、一つ一つ小さなパーツを積み上げて完成形を作りだす「帰納法」に慣れ親しんでおり、失敗した場合のリスクを懸念する杞憂があまりにも強く、「演繹法」が一般的に採用される可能性は小さいのではないだろうか。
これまでの歐米流のグローバル化とその一手段である自由貿易によって、先進國など一部の社會が豊かになったことは事実だが、その一方矛盾を生み出したことも忘れてはならない。だからといって、閉ざされた小さな世界に閉じこもる保護主義の道も得策ではない。これからは、従來の水平分業化ではない新たなグローバル化のスタイルが必要なのであろう。そのキーワードこそが「融合」であると考える。「融合」によるグローバル化、そしてそれを基礎とした自由貿易こそが敗者のない世界を生み出すのではないだろうか。