美しい伊豆高原の果てしなく連なる丘陵の間にそびえ立っているのが大室山だ。4000年前の火山の噴火でできた海抜わずか580メートルの山だが、伊豆半島を高みから見下ろす展望臺となっている。
付近にある「さくらの里」の桜はまだ咲いていなかったが、この山のふもとまで來ると、すでにピークを過ぎて散った桜があった。伊豆高原の天気はこれほどまでに見通し難く、すぐそばにある桜でさえなすすべを失っているようだ。
大室山は木のない禿山だ。ここでは毎年2月、山焼きが行われる。冬に枯れた草や低木が燃やされ、巨大な火の山ができる。その後すぐに春がやって來て、また新しい一年のサイクルが始まる。
この円錐形の山のてっぺんには円形の火口がある。山頂の道の旁に5體の石仏が鎮(zhèn)座しており、「五智如來地蔵尊」と呼ばれている。日本で尊ばれている地蔵菩薩だ。平安時代から地蔵菩薩は全日本で流行し、神社仏閣だけでなく道の脇や田畑、野原にまで置かれ、日本で庶民に最も親しまれ、最も敬われる神仏となった。
下山のためのリフトに乗って、もう一度大室山の火口を見上げた。溶巖の噴き上がる當(dāng)時の様子は想像もできず、自然の災(zāi)害を恐れる気持ちも感じはしない。火口の縁に鎮(zhèn)座したあの5體の地蔵菩薩はゆっくりと視界から消えていく。だがその首に巻かれた布の真っ赤な色は記憶の中でますますはっきりとしてくる。その慈悲が歳月の経過によって色褪せることのないのと同じように。